第1回シムレーサーインタビュー:チビック
EVracing.jpでは、Eスポーツで活躍するシムレーサーへのインタビューを敢行。第1回目のシムレーサーは「チビック」さん。
中国で行われた世界大会である「WERC」の準優勝や、国内eスポーツの「デュアルアタック」「アクセスカップ」等で総合優勝を経験した日本最速シムレーサーの素顔にせまります。
本インタビューの注目ポイント
-
免許取得後間もなく日本や中国のEレーシングイベントへ参加。底知れない実力を見せる
-
意外なシミュレーション環境… その影響は
-
サーキットでつながった縁により、転機となるドイツ ニュルブルクリンクへのレース参加を果たす
-
今年から現実のレースへ本格的に挑戦を開始する
-まずは軽く自己紹介をお願いします。
初めまして。
シミュレーターのネットネーム内では「チビック」という名前で活動させていただいています。本名はご存じの方がいらっしゃるかもしれませんが、福田遼(ふくだ りょう)といいます。
iRacingなどだと本名なので、お見かけしたら優しく接してあげてください。歳は1999年の早生まれで、今年で22歳になります。
-これまでに参加したEスポーツとその戦績を教えてください。
時系列で話していこうかなと思います。
初めてオフラインイベントとして参加したのは、株式会社アクセスさん主催の「デュアル・アタック」というイベントになります。デュアルアタックの初年度が2017年だったんですが、ちょうどその年に運転免許が取れたのでレースに参加させていただいて。
初年度の結果は、1位と同率ポイントの2位でした。ルール上そう(同率2位)なったっていう感じですね。そこで悔しい思いをしたので、翌年の2018年には更に練習を積んで挑みました。そうしたら、ありがたいことに優勝させていただきました!
ちなみにその翌年(2019年)もデュアルアタックが開催されたんですけども、その年は僕は出場していません。
次に参加させていただいたのは、デュアルアタックで優勝した年に参加した、中国でのeスポーツイベントでした。WERCという略称で呼ばれています。
日本人代表として5人で参加した結果、僕は2位。準優勝でした。中国の大会はそんな感じでした。
WERCの次に参加したオフラインイベントは、デュアルアタックと同じ会社主催のアクセスカップです。大会初年度である2019年の10月に参加しましたが、ありがたいことに優勝させていただきました。
オフラインイベントの参加経歴は、現状そんなところですね。
-オンラインではいかがでしょうか?
今は出ていないのですが、IPES初年度の初シーズンの時に少しだけ。2、3戦出場させていただきました。表彰台争いはしてたと思うんですが、ちょっとミスが目立ったりして、結局残念ながら良い結果は出なかったです。
あとは…これは大会になるのかな?rfactor2のカートシムという、公式のカートMODが出た時にタイムアタックイベントが公式で開かれていまして。世界戦で、一時はトップだったんですが、最終的には確か3番手で終わったと思います。
-マイカー含めて今まで乗った車や、走ったサーキットを教えてください。実車経験もできれば知りたいです。
結構色々と乗ってるので長くなりそうですが(笑)、とりあえず時系列ごとにお話します。
まずサーキットデビューは、僕が18歳…仮免許を取得したタイミングでした。車は、自分の足として使っていた三菱の古いミニカです。セントラルサーキット(兵庫県)での走行会で、20分枠で走らせてもらいました。
その翌年の4月、知り合いから誘いを受けて、スポーツランドSUGO(宮城県)で86のオートマに乗らせていただきました。アタック筑波などの系統で「アタック東北」というレースがあって、そのオープンクラスで2枠ほど乗らせていただきました。
その次は、先述の2018年度に参加した「デュアル・アタック」での優勝特典として、86/brzレースへの出場権が獲得できまして。その際「デュアルアタック」の決勝進出者に向けたドライビングレッスンのようなものを筑波サーキットで受けることができて、それもまた86のオートマだったのですが、86でTC1000とTC2000の両方で走らせていただきました。
その流れで、86/brzの練習としてTSタカタサーキット(広島県)に行きまして。そこで軽自動車のホンダのS660と、レンタル車両として今はなきトヨタのMR-Sのオートマで練習させていただきました。
鈴鹿サーキットでの86/brzレース本番では、86/brz用の車両に乗ってレースに出場しました。これがレースデビューかつ、JAF公式戦初でした。
それから色々ありましたが、あまり結果が良くなかったもので(苦笑)見かねた知り合いの方が、セントラルサーキットで行われる「お遊び耐久」っていう耐久レースにお誘いいただいて。そこではホンダの古い型のシビックEG6に乗せてもらい、レースに参加させていただきました。
-JOY耐のような感じですか?
そうですね、草レースの延長戦みたいな感じです。ガチの人もいますけどね(笑)色んな車や人がいて、楽しみながらレースしました。
それと、これが一番今のところ大きいイベントになるのかな?ニュルブルクリンクのRCNという競技に参加させていただきました。先述のセントラル耐久への参加を促してくれた知り合いの方がニュルブルクリンクでレースしておられる方で、その方の誘いでニュルブルクリンクに急遽行くことになりまして。なぜかは分からないんですが、いきなり「レースに出よう!」という流れになり(レースへ参加した)…(笑)
ちなみにこのRCN、ちょっと普通のレースとは違うんです。タイムアタックのイベントと言えばいいのかな?周回数が全部で16になるのですが、RCNという競技自体が「レース半分(8周)の時点で必ずピットインしないといけない」という特殊なルールがあるのです。混走して周回した中でベストタイムを出したらそれが順位になるという寸法です。
-1周クーリングを入れてもOKということですか?
はい。かつ、これまたちょっと難しいんですが、1周目の周回のタイムが基準タイムになるんです。ピットインのラップ・8周目の終わり・ピットに入る周回で、基準タイムとほぼ同じタイム±10秒以内で入ってこないといけないという少し特殊なルールが存在するのです。
-ピットインラップはのんびり走れないということですか?
はい、最初の基準タイムでのんびり走っていればのんびりといった感じになります。つまり最初の基準タイムが速ければピットに入る周も速く走らないといけないのです。
こんな具合にRCNはちょっと変わっていて、考えながら走らないといけないという面白いレースなのです。
そういうイベントの時に乗ったのが、ニュルブルクリンク専用で左ハンドルのスイフトスポーツです。ZC32型なので現行スイフトの前身になります。そのスイフトで、まずはニュルブルクリンクを4周ほど練習走行しました。その翌日の本番では、BMWの325iに乗りました。フォードアのセダンタイプの車です。足回りなどは一通りレーシング仕様でした。
ちなみにその時は、人生初のスリックタイヤでした。ニュルブルクリンクで初のスリックという、中々に度胸がいる状態だったんですよ(笑)。かつセミウエットという、難しいコンディションでした。セミウェットで皮むきなしの完全新品スリック…ちょっと滅入りましたけど(苦笑)、なんとか恐る恐るチキン走法のおかげで無事にゴールすることができました。
タイムも、初めて走ったにしてはかなり良い方でした。シム内のニュルブルクリンクではワールドレコードを持っていたので、そのイメージを活かして走行しました。
-ニュルブルクリンクから戻ってきた後は…
再びセントラルサーキットで走りました。その翌週頃、中々タイトスケジュールで、先ほどのEスポーツに絡む話なのですが…アクセスカップのイベント特別賞として、N1仕様の86を岡山国際サーキットで乗せていただくことになりまして。人生初、岡山国際でマニュアルの86に乗せていただいて。その時もまた雨男パワーがさく裂しまして(笑)、午前中がセミウエットの状態でした。そこで初めてレーシングラインを体験させていただきました。
そしてありがたいことに午後からは路面が完全ドライになったので、一日で2度おいしいという結果的には良い日になりました(笑)
その走行後、他のレースのお話はあったのですが、自分のやりたいことと逸れちゃうということもあり、お断りしています。
-その後はどのようなことがありましたか?また、やりたいこととは何でしょうか?
先述のセントラルサーキットにてシビックで耐久に出させていただいたチームのオーナーさんが、VITAを購入されまして。
そのVITAで岡山国際を走らせていただいたときにやりたいことが明確になってきたので、それに向けてVITAでやっていこうと決めました。
岡山国際の日は割と車も少なく、ドライで走りやすかったからか、最初にしてはそこそこ良いタイムが出せました。ただ、VITAという車が他の今まで乗って来た市販車ベースの車に対して動きが違ったので、そこは難しかったかなというところです。今もそれを課題として練習しています。
その後もう一度VITAで岡山国際を走らせていただいた時は超ヘビーウェットで、軽い車の雨という怖さを身をもって体験しました。久しぶりにスピンもかましまして、勉強になる一日でした。
ちなみに岡山の直前(4月)にモータランド鈴鹿で、車の動かし方や操作の仕方など色々と勉強したりもしていました。
そこでは敢えてブレーキングドリフトを練習したり、サイドブレーキやパワーを使わずに進入で荷重移動だけでドリフトをさせる練習をしたりしました。車はトヨタのMR-S(マニュアル)でした。
その次が、オートポリスが一番最近になるのかな?行ったのは良かったのですが、オートポリスはかなり山間にあるためか天候が安定せず、着いたらいきなりとんでもない濃霧と雨。危うく走行枠全滅しかけてたのですが、なんとか1枠ご厚意で増やしていただいて、30分だけでしたが走行することができました。
ただその時は、カメラの台数の関係で車載も撮れていなかったので、やっぱりまだ走り足りないですしデータも欲しいですし…そんなに遠くない内にまたオートポリスに行くと思います。
これからでいうと、10月に岡山のチャレンジカップに出るところです。
-eスポーツに参加しようと思ったきっかけは何ですか?
先述のデュアルアタックに参加したそもそもの理由(きっかけ)が、86/brzレースの参戦権が優勝者に与えられるということだったので。
当時は実車に乗ってみたくて、その中でちょうど免許も取って、自分のシミュレーターの中での動かし方が実車に通用するのかということを試してみたかったっていうのがずっとあったこともあります。そのうえで、レースの世界がどういうところなのかさらに見てみたかったです。
-その後のeスポーツについては?
アクセスカップもデュアルアタックへの参加と似たような意味合いで、86のN1仕様が乗れる且つ経験値を積みたかったので(参加した)。初めてのコースでしたし、N1ってスリックタイヤを履いていて、そういう車の経験値がなかったので、乗ってみたいなという思いがありました。
やっぱりそのとき優勝賞金として賞金があったのも、その大会に出ようと思ったきっかけではありますね(笑)
-使っているシミュレーター(ソフトウェア)は?
主にはrFactor2。あとはアセットコルサやiRacingあたり。一番使っているのはこのあたりです。その他にも、昔だったらrFactor1もやってましたし、オートモビリスタ、カートクラフトとか色々試したりしました。
色んな引き出しが欲しかったので、色んな動きを知っておこうと思ってたくさん使いました。
-一番のおすすめなどありますか?
これすごい難しいなと思うところがあって(笑)。ジャンル別でいうと、結局何を基準にするかなのですが…僕は実車にのりたいという意味合いでやってきているので、実車を考えている人に向けたオススメとしてrFactor2とアセットコルサをオススメします。
理由としては、rFactor2はタイヤモデルやシャシーという車の挙動に関わる演算がかなり細かいところまでシミュレートされていまして、なかなか他のシムには出せない味がやっぱりあって、タイヤの独特のよじれ感があって、ぬるぬる感があって、実車でも「あーこの感じ分かるな」っていうタイヤの動きがあって。そういうタイヤの動きを掴むにはrFactor2は勉強になるかなと思います。
ただ、rFactor2もMODによってかなり動きが左右されちゃうので、そういった意味ではちょっと玄人向けかもしれないです。
一方それに対してアセットコルサは、UI的にもカジュアルさがあってやりやすいという印象があります。
アセットコルサの良いところというのが、僕はけっこうフォースフィードバックが好きで、それが分かりやすいんですよ。
僕が使っているステアリングコントローラーは比較的安いのですが、そういうコントローラーでもきっちり分かりやすいFFBを出してくれるので、パッと乗ってパッとそれなりに良いFFBが出て(扱いやすい)。公式の車両だったらそこそこまともな動きをしてくれます。
それとすごく勉強になるという点で、シム界でみるとちょっとグランツーリスモ寄りじゃないですけど、それの様なやりやすさがある方なのかなと思います。実車に対して似てるところは似てるのですが、違うところは違うなという。その違いが分かる人が乗れば、すごくいい練習になると思います。
ある程度は近い動きをするのですが、それを信用しすぎるとちょっと怖いところもあって。例えば滑りだしたときの挙動については、タイヤがアセットコルサのモデルってよじれてないので、そういったところでちょっと違った動きはします。
もちろん車により良し悪しはあります!
-PCも含めて使っている機材を教えてください。
これは正直僕をあまり参考にしない方がいいのですが(笑)、中国で出場した大会の賞金を使って、BTOの組みあがったパソコンを30万ほどで購入しました。スペックとしてはi7の9世代のCPUを積んでいて、グラフィックボードはRTXの2080。メモリは特別に32GB入っていますが、そこまでは必要ないと思います。
モニターは主にVRを使っているのですが、レースシムをする時はPCを購入した店に転がっていた初代のHTC VIVEの中古です。バルク品でほぼ未使用の状態で4万5千円で購入できまして、かなりいい買い物をしたなというのはあるのですが(笑)、こちらを今現在使用しています。
中にはVRができないものもあるので、そういう時は普通のモニターです。ブックオフで中古で買ってきた1万円くらいの32型のテレビですね。
コントローラー関係については、基本的にはG27のフルセットで、壊れかけています(笑)。ハンドルが取れたりシフトノブがおかしくなったり色々してますが、ボタンまわりは絶好調で、なんとか多分今年で5年目くらい使っています。
取り付けている台は、家に転がっていたテレビ台です。転がってたものばかりなんですけど(笑)
僕のコックピットは寄せ集めものばかりで、テレビ台になんとか上手く改造しながら設置できるようにしています。シートはニトリ製の2千円の座椅子です。
-それでシミュレーターをやって勝ってるってことですよね。
そうですね…シミュレーターで速く走るだけなら、ソフトにもよりますが、正直そこまで環境に滅茶苦茶こだわる必要はないとは思っています。
-上述の環境があればeスポーツに参加することはできますか?
できますできます、全然できます!
-国内外の参加しているサーバーはどうでしょうか?
ここ最近は少なくなっているのですが、一番今出ているのはiRacingのKMRカップという国内のサーバーです。それは車両がグローバルマツダMX-5カップで、iRacingにデフォルトから入っている車です。iRacingをサブスクライブしていれば、基本的にはデフォルトから入っているコースが多いので狙っていけば良いと思います。
それと、最近行けてないのですが、rFactor2の谷間サーバーさんです。rFactor2の中ではかなり人が多いというかご存知の方が多いと思うのですが、日本人の方が日頃から毎週木曜日の夜に集まってレースを開催されているサーバーで、色んな車やコースで運営されています。中にはシリーズ戦などもあったりするのですが、僕はちょっと最近は突発でやってるようなところにしか行っておらずで。
自分自身でもたまにサーバーを立ち上げることもあります。
あとは僕自身ドリフトも結構やっていたので、アセットコルサのドリフトサーバーに時々いるかと、それとiRacingで見かけることも多いのではないかなと思います。
-自分のドライビングについてはいかがでしょうか?
僕はどちらかというと、元々派手な走らせ方をするタイプで。特に後輪駆動車に関してはアクセルでちょっとテールスライドしながら走るような走らせ方が(ドリフト上がりというのもあり)得意で、そういう傾向になります。
とはいえ基本的にはラジアルタイヤやマイルドな挙動な車の方が得意だったりしますが、実車でもこの間のVITAなんかは滑ってもマイルドな挙動だったので、そういう走らせ方をしちゃったのですが、VITAだとその走らせ方だと速くなっていくというのが凄く分かりまして。最近はVITAに乗ったのをきっかけにタイヤを転がして走るイメージで、そういう走らせ方を練習してますね。
以前よりもいい意味で舵角は増えたかもしれないです。フロントも使っているという走らせ方に変わってきて、前はターンインで向きを作ってゼロカウンターで走ってたのですが、最近はしっかりコーナー中もフロントも使って走れるようになってきたかな。
実車に乗り出してからかなりシミュレーターも乗り方が変わってきましたね。
-今後どういった活動を予定してますか?
主には実車の話になってきちゃうのですが…(ここから先は中々棘の道にはなるのですが)最終的には、ニュルブルクリンクへ行ったのがきっかけでニュルブルクリンクの24時間耐久レースやVNLといったレースに参加したいなと考えています。
それに向けて今VITAに乗り出しまして、明確な道をいえば、まずは国際ライセンスを取得するところから始まります。
そのライセンスを取得するためにVITAを貸していただいて、岡山やオートポリス、鈴鹿といったサーキットでJAFの公式戦に今年から来年にかけて出場していく予定です。
ライセンスを取ってニュルブルクリンクのコースライセンスというのを取得しないといけないので、まずはパーミットテストというテストを受けてからニュルブルクリンクのBライセンスを取って、そこでようやくVLNの出場権が与えられるという流れになるので、まずはそこ(国際ライセンス取得)から。
-VITAでは、岡山国際以外では出場しますか?
まだ決まっていないのですが、あり得るとすれば鈴鹿です。主には岡山になると思うのですが、合間に他の公式レースを挟むかもしれないです。
-最後に一言お願いします。
このインタビューで今までのことをお話させていただいて、振り返ると色々とやってる方だとは思うのですが(笑)、やはり「やってみたいことをやろう」と思います。
そして、人によってさまざまなやり方があると思いますが、「行動する」こともすごく大事だと思います。僕はその行動のきっかけがeスポーツのイベントでした。
みなさんも実車レースやeスポーツで名を出したい!と思えば、イベントに参加して行ってみたり、オフラインイベントなども参加していった方が知名度も上がりますし、興味をもってくれる人も増えます。
やはり活動をしていかないと道を広げていくのは難しいかなと思うので、ぜひいろんなイベントに参加していってもらいたいな思っています。
Eスポーツレーシングドライバー 名前:福田 遼 (ふくだ りょう) 年齢:21歳 出身地:兵庫県 主に使用している機材:G27 主に使用している車種:市販車/箱車 SNSアカウント :Twitter